大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)156号 判決

事実及び理由

一  請求の原因1ないし3の事実は当事者間に争いがない。

(審決が引用例記載の考案の構成を認定する際に用いた「ドアーエツジ本体(1)」の語は引用例記載の「アルミニウム金属薄板1」を、同じく「ライナー(2)」の語は「塩化ビニール2」をそれぞれいうものであることは、昭和五九年一〇月一六日第八回準備手続期日において当事者双方が一致して陳述したところであり、請求原因3の引用例記載の考案の技術内容は、本願考案の要旨の表現に従つて記述したものである。)

二  原告主張の審決の取消事由その一について判断する。

1  成立に争いのない甲第三号証によれば、従来自動車のドアー、特にその開放縁部を保護するドアーエツジは、単にコ字状に折曲した光輝性の金属薄板をドアーの端縁の形状に沿うように屈曲せしめただけで、コ字状の開放縁に格別の処理を施していなかつたため、これをドアー端縁に装着すると前記開放縁部でドアーに施された塗装面に擦過傷を生じることが多い等の欠点があつたこと、本願考案はこれらの欠点を除去することを目的としたものであり、右目的を達成するため前記考案の要旨のとおりの構成を採用したものであることが認められる。

原告は、引用例記載の考案において、アルミニウム金属薄板1は、単にカバー3を形成する塩化ビニール2の中芯として使用されているのに対し、本願考案では、金属薄板が主体でゴム又は合成樹脂製のライナー(3)がこれに付属するという構成になつているという相違点がある旨主張する。

そこで、まず、引用例記載の考案の技術内容について検討するに、成立に争いのない甲第二号証によれば、引用例記載の考案は、自動車の密集している狭い所でドアーを開いた場合、ドアーエツジが他の車に接触することがよくあり、その際他の車の塗装を傷つけ、その修理に多額の費用を要する等の問題を解決することを目的とするものであり、その考案の要旨とするところは、引用例の登録請求の範囲に記載されているとおり、「アルミニウム金属薄板1を、塩化ビニール2で被覆して一体とした板体をU字状に形成したカバー3を自動車4等に於けるドアー5のドアーエツジ6に冠装止定してなるドアーエツジカバーの構造」であり、右構成に基づき、「狭い場所に於いてドアーを開いた場合仮令ドアーエツジが他の車に接触することがあつても此部に冠装止定したカバーは外面が弾力性に富む塩化ビニールであるため接触部に傷を与えない。従つて従来のように多額の修理費を要しない利益がある」(引用例右欄第五行ないし第一〇行)という作用効果を奏するものであることが認められる。

ところで、本願考案の金属薄板からなるドアーエツジ本体(1)の内側にゴム又は合成樹脂製のライナー(3)を装着するという構成における「装着」とは、一般に、本体ないし主体に他の物を取り付けることを指称する言葉であり、本願考案においては、まさしく本体である金属薄板からなるドアーエツジ本体(1)にライナー(3)を取り付けるものであることは、原告主張の本願明細書の実用新案の説明中の記載を逐一参照するまでもなく、明らかであるが、引用例記載の考案における「被覆」という言葉もまた、一般に、本体表面を覆うべく、表面にフイルムやシートなどを張り付けたり、あるいは他物質の塗布・吹付・蒸着などをするときに用いられるのであつて、被覆が施される基体が本体であり、フイルムやシートなどが付属品となる。引用例記載のものにあつても、たとえ、引用例の登録請求の範囲中に「アルミニウム金属薄板1を、塩化ビニール2で被覆して一体とした板体」という記載しかなく、その他実用新案の説明中にも、アルミニウム金属薄板1に塩化ビニール2を装着するという記載がない(この事実は前掲甲第二号証により認められる。)としても、中芯体であつて塩化ビニール2を被覆するアルミニウム金属薄板1が本体で、塩化ビニール2が付属品を構成するとみるのが相当である。

この点に関し、原告は、引用例記載の考案のドアーエツジ6のカバー3外面の塩化ビニール2が弾力性に富み、接触部に傷を与えない効果を奏することをもつて、塩化ビニール2が本体であり、アルミニウム金属薄板1はその中芯にすぎないと主張するが(事実摘示第二の一、4、(二)参照)、塩化ビニール2が右のような効果を奏するとしても、ドアーエツジ6のカバー3の骨格を形成し、その芯体をなすアルミニウム金属薄板1が本体であるとの右判断を覆すものではないというべきである。

したがつて、審決が、前記のとおり、引用例には、アルミニウム金属薄板1に塩化ビニール2を装着してなるドアーエツジが記載されていると認定したことは正当として是認することができ、引用例記載の考案の構成を誤認したものということはできない。

2  原告はまた、引用例におけるアルミニウム金属薄板1と本願考案の金属薄板との材質の硬軟の差、厚さの相違、加工性の容易度の差を述べる(事実摘示第二の一、4、(四)、(五)参照)。しかしながら、原告の右主張は、前記引用例記載の考案及び本願考案の要旨とする構成を離れ、若しくはその構成に基づかないものであることが明らかである。したがつて、右主張に係る事項をもつて、引用例記載の考案と本願考案の構成の差異となすことはできない。

3  1、2でみたところからすると、原告が主張するいずれの点をもつてしても、引用例記載の考案において、アルミニウム金属薄板1が単に塩化ビニール2の中芯として使用されているのに対し、本願考案において、金属薄板が主体でライナー(3)がこれに付属するという構成上の相違点があるものと認めることができず、審決には、相違点についての看過は存しないというべきである。

そして原告が主張する両考案の作用効果の相違(事実摘示第二の一、4、(六)参照)のうち、本願考案に係るドアーエツジはそれを弾性をもつてドアーに強固に装着できるとの作用効果は、本願考案においても引用例記載の考案においても要旨とされない金属薄板の材質の硬軟あるいは厚さをそれぞれ一定のものに限定することを前提とし、そのような限定された構成に基づき両考案が奏する作用効果をそれぞれ確定したうえ、両者を対比してはじめて、引用例記載の考案にない作用効果かどうかを論定できるものであり、その前提を是認できない以上、それを本願考案の特有の効果と認めることはできない。また、引用例記載の考案が前記のように「弾力性に富む塩化ビニール」をアルミニウム金属薄板1の内面にも被覆するものである以上、ドアーエツジをドアー端縁に装着する際にドアーに施された塗装面を損傷するのを防止する作用効果をも奏するものと認められ、引用例記載の考案と構成上の相違が存しない本願考案も、自動車のドアーの塗装面を損傷することがないという作用効果を奏するものと認められるが、これを格別のものということはできないことは明らかである。

4  以上説示したとおり、審決が引用例記載の考案の構成を誤認し、かつ本願考案と引用例記載の考案の構成上の相違点及び本願考案の奏する顕著な作用効果を看過したとは認められないから、審決がそのような認定、判断の過誤を犯したことを前提に、本願考案が進歩性を有しないとした審決の認定、判断の誤りをいう原告の主張は失当である。

三  審決の取消事由その二について判断する。

審決は、相違点(2)について、<1>「本願考案が、リブ(31)の部分を除いた本体(1)の外側を被覆しないことによつて、引用例記載の考案に比し格別の効果が得られるとも認めることができない以上、本体(1)の全面を被覆するか、あるいは一部だけを被覆するかは、当業者が必要に応じてきわめて容易に選択実施し得る設計変更というべきである。」<2>「以上のことから、本願考案は、前記相違点(2)において引用側に記載されたものと構成上相違するとしても、当業者が引用例の記載に基づいてきわめて容易に考案できたものであると認められる」旨判断した。右<1><2>の説示を通じ審決の趣旨とするところは、本願考案において、リブ(31)(31)の部分を除いたドアーエツジ本体(1)の外側を被覆しないことによつて格別の作用効果を奏することが認められない以上、本願考案は、アルミニウム金属薄板1の内側及び外側の全面を被覆する引用例記載の考案に基づいてきわめて容易になし得る構造の変更にすぎないとして、考案の進歩性を否定したものと解せられる、これに対する原告主張の審決の取消事由その二も(その中に、審決の右<1>の説示部分を本願考案と引用例記載の考案とが実質的に同一であるとしたものと解して、その判断の誤りをいうもののように読める表現が含まれるが)、帰するところ、前記趣旨の審決の認定、判断(進歩性の欠如)の誤りを攻撃するものと解されるので、以下その主張の当否について検討する。

1  原告は本願考案においてリブ(31)(31)の部分を除いたドアーエツジ本体(1)の外側を被覆しない構成はきわめて容易に考案できるものではないと主張するが、ドアーエツジ本体の内外全面を覆つたものが存在するとき、その外面の一部を覆わないようにすることは、何ら考案力を要するものでないと認めるのが相当である。しかも、外面の一部を覆わないことにより、ドアー端縁が他の物体と衝突したとき、ドアー及び被衝突物への衝撃を緩和する効果が劣ることが明らかである。

原告は、引用例記載の考案に右のような効果のあることを前提として、右の効果が失われるような外面の塩化ビニールの削除は、適宜選択し得る手段でないと主張するが(事実摘示第二の一、5、(一)参照)、この主張は、本願考案が引用例記載の考案より効果が劣ることを前提とし、進歩性のないことを自認するものであつて、採用の限りでない。

2  原告はまた引用例記載の考案と本願考案とでは、基本的な構成が異なることを前提にして、審決が相違点(2)について単なる設計変更であるとした判断の誤りを主張するが(前同(二)参照)、この前提が理由のないことは、さきに二において判示したとおりであつて、この主張も理由がない。

3  更に、原告は、本願考案のようにライナー(3)に折返しリブ(31)(31)を設ける構成を採用することを引用例記載の考案から推考することはきわめて容易でないというが(前同自参照)、前掲甲第三号証によると、原告主張のように折返しリブ(31)(31)がドアーエツジ本体(1)を装着する際、ライナー(3)の脱落や移動を防止するという作用効果を奏するとの点は本願明細書に記載されていないことが認められるのみならず、仮に右作用効果が本願明細書の記載から読み取れるとしても、該作用効果は自明的なものであつて、何ら格別のものとは認められない。したがつて、該作用効果の顕著なことを前提として前記構成の困難性をいう原告のこの主張も理由がない。

4  以上判断したところによると、相違点<2>についての審決の認定、判断に原告が主張する誤りはないというべきである。

四  最後に取消事由その三について判断するに、前記本願考案の要旨からすると、本願考案では、原告主張のとおり、金属薄板からなるドアーエツジ本体(1)にゴム又は合成樹脂製のライナー(3)が組み合わされていることが明らかである。

しかしながら、本願考案の要旨において右組合せを指称するについて「装着1という言葉が使われており、一般に、「装着」には、「着脱自在な装着」と接着剤等を用いた「離脱不能な装着」の二つの場合があることは技術常識に属するところ、前掲甲第三号証によれば本願明細書中に、ドアーエツジ本体(1)とライナー(3)とが着脱自在であるとの記載は存しないことが認められるから、本願考案の要旨に「装着」という表現があることから直ちに、これを「着脱自在な装着」と限定して解することは許されないところである。また、原告が主張する着脱可能なことに伴う作用効果についての記載が本願明細書上存しないことが右甲第三号証によつて認められるところである。

結局、原告の主張は、すべて、本願考案にない構成及び作用効果を前提とするものであつて、理由がなく、審決には、原告の右主張に係る相違点の看過は存しないというべきである。

五  してみれば、審決の取消しを求める原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却する。

〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。

ステンレススチール等の金属薄板を断面U字状乃至コ字状に折曲するとともに、自動車ドアー(2)の端縁形状に沿うように所要の屈曲を施したドアーエツジ本体(1)の内側に適宜の硬度及び弾性を有し、相似形状としたゴム又は合 成樹脂製のライナー(3)を装着し、このライナーの両端縁には折返しリブ(31)(31)を設けてドアーエツジ本体(1)の両端縁(11)(11)を覆うようにしてなるドアーエツジ。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!